ブルドッグショウ　門外不出無駄話　
『黒いチューリップ』チラシ裏面没ネタ展　同時開催中

お話　伊藤えん魔さん

第１話　石油コンビナートを守れ！　謎の高熱怪獣
　
　ブルドッグショウ『女の敵』は大阪でちょいとだけ遊ぶつもりでやったライブだった。ところがプロデューサーの登紀子が「これはいけますよ。東京でもやりましょう。夏と秋にもやりましょう」と言う。そこで俺はソロバンを弾いた。「そうだな、役者一人当りのギャラ１００万ならやるぜ」　登紀子はいつもの洋モクに火をつけると、こう言い捨てた。「黙っておやりなさい。いいですね？」　側頭部にタバコを押し付けられた俺は毎日香のでっちとなり、「へい、こいさん（浪花言葉でお嬢様の意）がおっしゃるなら、いつでもやらせてもらいます。わて！」　なんてこった。ベトナムで『ホーチミンの焼そば』と恐れられた俺のプライドはすっかりどこかへ消し飛んでいた。側頭部に残った１０円大の傷がベトコンの焼夷弾で受けた染みのように痛んでいた。
（ゴーギャン『黄色いキリスト』）

第２話　君たちは友達？　小型怪獣パゲラとドバカ

　とにかくブルドッグショウはノリだけで作ったストーリーだ。古いダチ公の腹筋と鈴木田が集まった。「いつもは吸物扱いの俺達だ。どうせならシリアス全部アドリブでやろう。どこかのインチキ野郎がやってる『●木さん家の奥さん』『シャト●ー研』が裸で逃げるようなライブをやろうぜ」　スキンヘッドを小刻みに揺らしながら腹筋が言う。すかさず鈴木田が続けた。「逃げるのは裸足じゃないのか？　それに俺達はイロ物だ。吸物て。ウナ肝？」　俺も同じ事を考えていた。裸で逃げるのはピューリッツァをとったベトナムの女の子の写真だ。そう言えば、あの子は立派な大人になり、以前テレビに出てたっけ。本当に良かった。戦争なんざ二度とない方がいい。俺はフッと笑ってため息をついた。「ミーティング中に笑うとは何事です」　登紀子が俺のろっ骨の隙間にシャベルをねじ込んだ。激痛に身をよじらせつつ俺達はエチュードを始めた。三人の殺し屋がそれぞれの過去を語りあう設定だ。始まって３分。誰もロクに喋れず、珍妙な空気が流れた。「あの、お、俺、殺し屋。殺しの武器ビュ〜ン！　指先から弾丸がメキ！　バン、キーン！」「そ、そうそう、うん、そうそう。俺もそう」　２分後、登紀子の指示でアドリブ芝居は却下され、全編俺が台本を書き下ろす事になった。
（ロートレック『ムーランルージュ』）


（新型育毛剤の効果を試す掛布の様子を
　イメージキャラクター中村雅俊に
　突撃インタビューを試みるオスカル）

第３話　海底油田基地の危機　水中でドアを開けるな

　ブルドッグショウには他のダチ公にも来てもらった。大阪じゃ、西田政彦が真剣にてんぱり、かっぱが俺の過去を赤裸々に暴露、「短かめに」と頼んでおいた上海にはエンディングの曲がなくなる程引っ張られた。東京ではその反省をいかし、ストイックで真面目な連中を呼ぶ事になった。俺達の声がけになかなかの凄腕どもが集まってくれた。これでタイトでいかしたハードボイルドができるはずだ。だが、初日の池鉄はただのクネクネした柔らか野郎で、真の精神病だった。EHHEについてはあまり語りたくない。下品な下ネタはするなと言っておいた。だが、奴らがやったネタは「挿入艦精子号」「パント愛撫選手権」だった。ダンサー梅林に至っては本番当日いきなり「俺、舞台でセリフ言った事ないんです。どうしましょう？」　登紀子が受付で買ったばかりの金属バットを振り回してたっけ。俺にはダチなんていねぇんだ。
（ゴッホ『ひまわり』）

第４話　若き戦士　新型ミサイルを発射せよ

　嬉しい事にブルドッグショウでは多くの女どもが劇場から出る俺達を待ち構えていた。いつの時代も贔屓さんってのは有り難い。まだ年端のいかねぇ娘が、俺に色紙を差し出して嬉しそうに言った。「ブルドッグって、パグの事だべさ？　それともチャウチャウだべ？　んだな？　な？」　オツムの弱いカントリーな女も悪くはねぇ。俺はその娘を強引に抱き寄せてキスをした。「いいか。ブルドッグってのはな。ソースメーカーが考えた架空の生物なんだぜ？」　うっとりもたれかかる娘の鼻にサインペンをねじ込もうとした時だった。背後で登紀子の声がした。「美津乃さんがお見えですよ」　ヒュルルル・・・。俺はゆっくりと、ゆっくりと意識を失う。これは美津乃愛用の鎖鎌が俺の首にしなやかに巻き付く感触だ。側頭部では１０円大の傷が、さらに強い痛みを走らせていた。
（ルノワール『踊子』）